『Forbs JAPAN』のサイトに一昨年の暮れ、「イーロン・マスクの肝いりAI、リベラル発言連発で笑い種に」という記事が載り、マスク氏のxAI社が開発したチャットボット「Grok」による数々の見解に、マスク氏が忌み嫌うリベラルな特徴が目立つことが揶揄されていた。例えば、米大統領選でトランプ氏とバイデン氏のどちらに票を投じるか、という問いに、Grokは社会問題や気候変動などへの姿勢の違いを理由として「バイデン氏に入れる」と答えたという。


 マスク氏はその後、Grokを保守的「論客」にキャラ変させようと奮闘しているやに聞いているが、最近は日本のⅩでも、無料でGrokを使えるサービスが始まっていて、私は何回かやり取りを試してみた。結論から言うと、日本語版においてもGrokの論理展開は極めてリベラルで、私には「驚くほどまともな発言」をする存在に感じられた。


 例えば、兵庫県政をめぐる2人の人物の死の問題。斎藤元彦知事の疑惑を最初に告発した元県民局長は、「PCを押収され私的情報を暴露されることを知事周辺からほのめかされ、その心痛によって自死した可能性が高い」ことが推察され、知事選後に自死した竹内英明県議のケースでは一部の知事支持者による誹謗中傷の殺到が原因となった可能性が高いことが、さまざまな周辺情報から明らかになっている。ところが、一部熱狂的知事支持者は「遺書などで明言されていない以上、自死の原因はあくまでも不明」と頑なに強弁し、圧力や誹謗を原因と見る上記のような推定を「デマ情報」とまで言っている。


 しかし「100%の断定」はできなくても、「可能性の強さ」については十分言えるというのが私の意見であり、Grokも同意見だ。例えば、小中学生のいじめ自殺と思しきケースでは、遺書などで明確な言及がない場合も、周囲の大人たちや級友などへの聞き取りで「いじめの存在」が周辺情報として出てくれば、教育委員会などの調査報告では「いじめ自殺の可能性」に言及する書き方が一般的だ。文科省も近年はそういった方向性で教委を指導しているという。


 だが、そんな物差しと照らし合わせると、「原因不明」と強弁する兵庫問題での論法には違和感を禁じ得ない。圧力・誹謗が原因である可能性が「低い」というならば、現状の周辺情報を打ち消すだけの論拠が当然求められるのに、知事支持者たちはそれを示してはいないとGrokは指摘する。


 ただ、私個人なら頷くことばかりのGrokの言及を、熱烈な知事支持者に読ませたら、卒倒せんばかりに彼らは怒り散らすだろう。そんな懸念をGrokに伝えると、自分(Grok)のスタンスは中立で、論理的かどうかで物事の判断を下すだけ、「心配はご無用」と返事が戻ってきた。相手を見て表現を和らげる(オブラートに包む)ことは多少あるものの、質問への回答そのものを変えることは決してないという。フジテレビのガバナンス問題や一般的な「分断と対立」問題でもやり取りをしてみたが、私とGrokの相性は抜群によく、9割5分以上のGrok解説に私は満足した。


 ただし、今後さらなる技術の向上で、ゴリゴリの右派的なAIをつくることだってできそうな気もする。なので「AIへの盲従」はやはりリスキーだと思うのだが、現時点での私の評価では、生身の人間のネット書き込みが100件あるとすれば、Grokが示す見解はその上位3件に入るくらいのクオリティーがある。「AIによれば~」という論法は、目下の右派・左派の分断と対立を緩和する糸口にできるかもしれない。


 今週の『週刊文春』に載った「ボルトン元補佐官が明かす『安倍晋三のトランプ攻略術』」の記事。ボルトン氏によれば、民主主義国のリーダーとはいい関係が築けなかった第1次政権でのトランプ氏であったが、プーチン氏や習近平氏、金正恩氏といった独裁者たちとは波長が合い、金正恩氏とは「恋に落ちた」とまで語るほどの親密さだった。トランプ氏に対しては説教をしたり要求を突き付けたりする相手はダメ。その点、一緒にゴルフを楽しむなどトランプ氏を上機嫌にさせることが得意だった安倍氏は、相性がよかったとのことである。いずれにせよ、いよいよ始まった氏の関税政策は、早くも世界経済を大混乱に陥らせつつある。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。